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臥頭狂一のエロ小説ブログ。※18歳未満閲覧禁止。

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恣(ほしいまま) ~共有される幼な妻~ 第十話 (53枚)

 
 ファビオは苛立っていた。鬱憤は溜まるばかりで、なにもかも面白くない。イケルが起こした騒ぎのせいで、午後からの仕事は中止になるだろう。
 家に戻った彼は、煙突の煙に激して扉を蹴り開ける。
 扉の先の光景は、我が目を疑うものだった。幼い弟と、幼妻の情事……。
 逆上したファビオが、ふたりを許すはずもなかった。




「おやじ、煙草だ」
 老店主の動きは鈍かった。カウンター越しに声をかけられても、椅子に腰を降ろしたまま立ち上がろうともしない。顎を上げるまでに一呼吸、眠たげな目が客の姿を捉えるまでには、さらに数秒を要した。雑貨屋の午後は気怠いものであるらしい。薄暗い店内に、ほかの人影は見当たらなかった。
「……聞こえなかったのか、おやじ。いつものを三箱くれ」
 客の声に苛立ちが混じる。後ろに束ねた長髪に触れるのは、落ち着かないときの癖なのだろう。つまんでは撫でる指が忙しなかった。
「珍しいの、こんな時間に。仕事はどうしたんだ、ファビオ」
 肉づきに乏しい頬がひくひく揺れる。舌打ちをひとつすると、痩躯の客は拳をカウンターの上に叩きつけた。
「いいから、早くしやがれ!」
 年季の入った仕切り台が派手な音を立てても、店主はまるで顔色を変えなかった。甲高い声での脅しもむなしく、涼しい顔をしている。かえって目の前の若者に興味を示したくらいだった。落ちくぼんだ瞼の下で、少年のように眼を輝かせている。
「まあ、そういうな。話し相手に餓えとるんだ。この時間は、まったく暇でな。たまには若い鉱夫の話も聞きたいんだよ。……急ぐわけでも、なかろう?」
 機嫌を窺うように皺だらけの笑みを浮かべ、店主は封の切ってある煙草をファビオに差し向けた。売りものではなく、愛用のものだろう。
 苦々しく顔をしかめつつ、痩躯は箱から一本の煙草を引き抜く。偶然にも要求した銘柄と同じだった。マッチを取り出そうとポケットを探るも見つからない。
「ほら、使え」
 傷だらけのオイルライターを手渡され、ファビオは思わず礼を口にしそうになった。
 どうにも、このおやじには調子を狂わせられる。落ち着こうと煙を吸いこむも、咳きこんでしまうしまつだ。オイルの匂いに慣れていないためだ、と胸の内で自分にいいわけする。実際、酔いそうな匂いだった。
「それで、何があったんだ。まだ正午を過ぎたばかりではないか。まさか、作業が中止になったわけでもあるまい」
 どうあっても話につきあわせるつもりなのだろう。台の上に肘をつくと、店主は緩慢な動作で自分の煙草に火をつけた。二本の指で紙巻きの根もとを挟み、ぷかぷかと紫煙をくゆらせている。垂れ下がった頬がわずかに高い。
「その、まさかだ。今日はもう、仕事にならねえ」
 根負けしたらしい。ファビオの顔から、険が薄れている。
 老店主とのつきあいは長い。歳の離れた弟が出歩けるようになるまで、買い出しは彼の役割だったのだ。泣き顔を何度も見られているし、幼き日の醜態を覚えてもいよう。脅しやはぐらかしが通用する相手ではなかった。ある意味では、父や兄よりもファビオを知っているといっていい。
「ほお。ひょっとすると……またイケルが暴れたのか」
「……どうして、わかった」
 細い目を丸くする若者に、店主は皺深く笑ってみせた。
「今日のことは知らんが……町中で噂になっとることぐらい、わしの耳にも入る。ずいぶん無茶しとるみたいだな、おまえの兄貴は」
 紫煙を口の端から吐き出すファビオの表情は、ふたたび渋いものになった。舌打ちを繰り返し、カウンターの上の灰皿に煙草を押しつける。
「それで、今日は何人を叩きのめしたんだ? ひとりふたり、ぶちのめしたところで、作業は中止になるまい。鉱夫の喧嘩なんぞ、珍しくもなかろうて。……よもや、死人が出たわけでは」
 痩躯が首を左右に振る。
「相手は七人だった」
「ほ。それは大立ち回りだったな。さすがのイケルも苦戦……したわけでもなさそうだな。その、おもしろくなさそうな顔からすると。親父に似て、化け物か。まったくかわいげのない。……それにしても、敵が増えたものだの。七人とは」
「あの野郎……アルトゥロの爺さんを殴りやがった」
「なんだと!」
 老店主の顔色が変わる。血色を失ったのもつかのま、みるみる赤く染まっていく。鼻息が荒かった。鉱夫の喧嘩話をこれ最高の娯楽と頬を緩めていたのが嘘のようだ。
「あの、馬鹿め。愚かな、ことを……」
 アルトゥロは鉱山で働く労働者の長老格で、年齢は五十六歳。最年長の鉱夫として、誰もが敬意を払う存在だった。
 鉱山で働く男の寿命は短い。大半の者は粉塵の毒に肺を冒され、四十半ばまでに隠退を余儀なくされる。落盤などの事故によって死ぬか、不具の身になることも稀ではない。五十を過ぎて現役でいられるのは奇跡といってよかった。
 働けなくなるということは、この街に住む男たちにとって死にも等しい。
 餓えて死ぬ、というわけではない。満足に働ける男が家族にいれば、見棄てられることはなかった。鉱山町に住む者は、血の繋がりの意識が強い。寝たきりになっても最期まで面倒を看るのがふつうだ。貧しい暮らしが血族間の相互扶助を成り立たせている。
 養うことを放棄した者は、いずれ自分が同じ状況に陥ることを覚悟しなくてはならない。棄てた者は棄てられても文句がいえないのだ。周囲の目もある。家族を棄てた者として、死ぬまで後ろ指をさされ、蔑まれることになるだろう。いわば相互監視の役割を、隣人どうしが担っている。おかげでこの二十年あまり、家族に棄てられて死んだ者はいない。
 病気や事故で働けなくなっても、生きてはいける。食わせてはもらえる。餓え死にすることはない。だが、男としては終わりだ。
 働けなくなった男に向けられる視線は冷たい。家族内における序列の最低位に堕とされ、与えられる食事は生存に必要なぎりぎりの分量にまで減らされるのが常だ。共有妻を娶っていたとしても、もう抱くことは許されない。それまで家長であったとしても同じだ。お荷物、厄介者として扱われることに変わりはない。勤労の義務から解放されるかわりに、権利のすべてを失う。
 稼ぎがなくなるということは、子や弟からの敬意と自尊心をいちどに喪うということだった。人間として扱われなくなる。ただ、生きているというだけだ。
 事故と病気は、鉱山で働く男にとって災厄の最たるものであり、打ち倒すことのかなわぬ仇敵といえた。
 命知らずと虚勢を張っても、不具をおそれぬ者はいない。粉塵の毒を厭わぬ者はいない。やがて訪れる隠退の日を、男たちは突然の死よりもはるかに深く恐怖している。忌避に忌避して、話題にもしない。できるだけ遠い日であれと心より願う。
 いまだ足腰も剛健で肺病の予兆もないアルトゥロは、鉱山の生ける伝説といえた。
 衰えを感じさせぬ肉体が羨ましい。事故と無縁の強運にあやかりたい。そう思わない鉱夫は皆無といってよかった。誰しもがいつまでも男でありたいと望み、その象徴としてアルトゥロを尊ぶ傾向にある。無敵と謳われたヘルマンが落盤で死んでからはなおさらだった。
 むろん、鉱夫としての能力も認められている。長く健康を維持しているだけでは、荒くれぞろいの鉱夫たちから敬われるわけがなかった。
 四十年以上もの経験は伊達ではない。老いてなお並の熟練者より仕事の質で上回る。温厚な性格で面倒見もよく、世話になった者も少なくない。町の英雄であったヘルマンでさえ、アルトゥロを軽んじることはなかった。助言を乞うこともあったほどだ。
 粗略に扱っていい人物ではないことは、若年から壮年まで心得ているはずだった。手をあげるなどもってのほかだ。鉱夫ならぬ雑貨屋の店主にまで、その認識は染み渡っている。
「イケルの野郎、最近はまったく働かねえんだ。そのくせ、他人を顎で使いやがる。あまりにもひどい、目に余るってんで、ついにアルトゥロが重い腰を上げた。アルトゥロに諭されたら、さすがにイケルの馬鹿も目が覚めるだろう、しばらくはおとなしくなるだろう……みんな、そう思ってたに違いねえ。アルトゥロの爺さんは、あのヘルマンも認めた男だからな。……それを、あの野郎……三十秒と聞かずに殴り飛ばしやがった」
 語るファビオの眉間に皺が深い。仕切り台の上に置いた握り拳にも力が入っている。
「アルトゥロの爺さんを殴られちゃあ黙ってられねえ。たちまち、周りにいた七人がやつを取り囲んだ。いつもの喧嘩じゃねえってことは、誰の目にも明らかだった。七人のうちふたりは、ナイフを抜いてやがったんだ」
 老店主は腕を組んで耳を傾けている。青年を見つめる眼光は鋭い。
「息を合わせたかのように、ナイフを持ったふたりが同時に襲いかかった。ひとりは前から斬りつけ、ひとりは後ろからイケルの背を刺した。……ナイフの刃は間違いなくやつの腕、手首近くを斬り裂き、背中には半ばまで突き刺さったんだ。それも小っちゃな折りたたみのナイフじゃねえ、刃渡りの長い鉈みてえなナイフだ! ……なのに、やつは倒れなかった」
 話しているうちに興奮してきたのだろう。痩躯の頬に赤みが増していく。
「腕からは血が噴き出し、背には太っといナイフが突き刺さってたが、やつは気にした素振りも見せなかった。獣みてえに吠えると、取り囲んだ七人に襲いかかっていきやがったんだ」
 真鍮製のライターが小気味よい音をたてて開かれる。老店主のかわいた唇に、新たな煙草が挟まれていた。オイルの匂いが漂い、ファビオの鼻腔をくすぐる。
「……一瞬だ。一瞬で七人は地に這いつくばってた。気を失ったやつもいれば、顎を砕かれたやつもいる。七人もいて、まるで歯が立たなかった。……それだけじゃねえ。イケルの野郎、全員をぶちのめした後もぴんぴんしてやがった。背中に刺さったナイフを引き抜いて、『俺は不死身だ』なんてうそぶきやがる」
「ほお。あやつの筋肉は、ナイフの刃も止めるのか」
 紫煙を吐き出す老店主の声は、すでに落ち着いていた。憤りは収まったものらしい。
「……ああ、そうだ。あのぶ厚い筋肉に阻まれたらしい。かなり深くまで刺さってたはずなんだが、それでも骨まで届いていたかどうか。……致命傷にはほど遠かったってのは確かだ。平気な顔をして取り巻き連中と騒いでやがったからな」
「化け物、だの。あやつは。……今後は、イケルの天下になるか」
 つぶやきに近かったが、痩躯は過敏な反応を示した。
「冗談じゃねえ! あの野郎の好きにさせてたまるかよ!」
 固く握られた両拳が、怒りのままに仕切り台に叩きつけられる。灰皿がひっくり返り、床に落ちて転がっていく。煙草の灰が舞いあがったが、老人は瞬きもしなかった。
「しかし、七人を手玉にとるような化け物を止められる者はおるまい。……その場には、ほかの者もおったのだろう? 傷を負った男を相手に、誰ひとり手出しできなかった。イケルの迫力に呑まれてしまったのではないかな?」
「う……」
 反発は依然ファビオの臓腑を煮やしてはいたが、応酬のために口を開く気にはならなかった。
 老店主の視線がつらい。ただ見つめられているだけだ。こっちを睨んでいるわけではない。なのに、咎められている気分になる。穏やかな口調までもが、鋭い皮肉を伴って耳に痛い。
 おまえも、そのひとりだ。横暴な兄に殴りかかることもできない、臆病者だ。そう罵られた気がした。数を頼りにしたとはいえ、あのイケルに立ち向かった七人は男だ。アルトゥロを殴られ、義憤に突き動かされた男たちだ。だが、おまえはそうではない。その他おおぜいの腰抜けに過ぎぬ。口に出さずとも、眼が訴えている。嘲っている。
「さて、いつものを三箱だったの」
 かっと頭に血が昇りかけたところで、老店主が立ち上がった。カウンターに背を向けて、煙草が並び積まれた棚へ手を伸ばしている。
 つきあいが長いだけのことはあった。青年が感情を爆発させる前に、空気を変えてしまう。癇癪かんしゃくもちをからかって愉しんでいるのかもしれない。
「ところで、ファビオ。おまえさん、煙草の量がずいぶん増えたが、そんなに吸う暇があるのかね。家の中では吸えないのだろう?」
 店主の声は軽かった。背にしているせいで、ファビオの顔は見えていない。その表情を一瞥でもしていれば、続きを口にはしなかっただろう。
「しかし、大変だな。親父さんと同じく、イケルも煙草を吸わないのだろう。吸わないどころか、煙も許せないというのだからな。夜は屋外で吸っているのか? もう寒い時期だろうに。……おお、あった、あった。これだな」
 目的の銘柄を見つけて振り向いたとき、老店主ははじめて青年におそれを抱いた。手にしていた煙草の箱を床の上に落とし、さらには背を棚にぶつけてしまうほどの狼狽を見せる。思わず後退あとずさっていた。
「……誰から、それを聞きやがった」
 痩躯の顔は青ざめていた。青いというより、死人を思わせて暗い。声色は地を這うように低く、濁りが強かった。甲高い調子でわめく平素の印象はすっかり消え失せている。
「だ、誰って……そりゃあ……」
 おびえを自覚しつつ、老人が口ごもる。
 白昼の幽鬼と対峙している気分だった。鼻垂らしのころからよく知っている男なのに、なぜこうも気圧されるのか。息苦しさすら覚えるほどだ。こんなふうに怒る男だとは認識していなかった。
 そもそも、何がそんなに気に障ったのだ? 誰から聞いたか、知ってどうする。まさか、報復するつもりなのか。こんな、ささいなことで。想像が制裁の場面を脳裡に映し出すにおよんで、老店主の背は冷たい汗にまみれた。
「イケルの野郎……か? ……いや、やつの取り巻き連中がいいふらしてやがるんだな。そうだろう。そうに違いねえ」
 聞こえよがしに舌を打って、ファビオは床に落ちた煙草の箱を拾い集めていく。独りで結論を生んで納得したらしい。しきりに頷いている。
「金はツケでいいよな? また近いうちに来る」
 青年の口調はもとに戻っていたが、老人は背を棚板にもたれさせたままで、返事をすることもできなかった。広くはない背中を見送ったのち、ほっと安堵の息を吐く。
 仕切り台の上の煙草へ伸びかけた手を引っこめ、店主は胸の前に指を組み、頭を垂れて祈った。



――くそったれが。
 紫煙混じりの息が熱い。臓腑の底で炎が渦を巻いて昇り、灼熱を胸へと伝えている。肌を撫でる風は冷たく、剃刀の刃のごとき鋭さを伴っていたが、怒りに囚われたファビオはまったく寒さを感じていない。脳天から指先にいたるまで、煮えた油が巡り回っているようだった。
――どいつもこいつも、舐めやがって。
 家路をたどる足の運びは鈍い。はげしい憤りによって生じた震えが、膝にまとわりついて離れないのだ。
 大地を踏みにじりつつ、痩躯は短くなった煙草を投げ捨てた。放ったその手はすぐさま胸のポケットをまさぐり、次の一本を取り出す。風のおかげでマッチの火は消えやすく、何度も同じ動作を繰り返すはめになった。
 誰もかれもが腹立だしい。傲慢なイケルはもちろんのこと、その取り巻きも、殴られ蹴られて蹲った七人も、見ているしかなかった他の連中も、直接の関わりもないくせに非難の視線を送る雑貨屋の老店主も。
 いま置かれている状況も、むろん納得できるものではなかった。ヘルマンが死んでからというもの、ファビオはずっと煮え湯を飲まされている。
 セルダ家の家長となった兄は、父以上に大きな顔をするようになった。弟たちを軽んじることはなはだしく、年少の末弟など奴隷同然に扱われている。横柄な振る舞いは家の内だけにとどまらず、職場においても弟をないがしろにした。
 兄弟で会話を交わすことはないが、新たな暴君のご機嫌取りにいそしむ連中の顔を見れば一目瞭然だった。ファビオへ向けられる眼は、一様に嘲りの色に染まっている。男たちを従える兄の意向が働いているのは間違いなかった。でなければ鉱山を牛耳ろうという男に追従する者たちが、その弟を粗略に扱うわけがない。あえて侮蔑の視線をおくる理由は、イケルにこそあるはずだった。
――父や兄に似ても似つかぬ出来損ない。
――腰抜けの弟。
――根性無し。
 陰では悪口の限りを尽して罵っているに違いない。兄とその取り巻きを目にするたび、ファビオの体温は急激に上昇する。頭部に集まった血潮は額に血管を浮き立たせ、胸は屈辱に灼けついて吐く息すら熱く、足の指先にまで怒りの震えは伝播していく。
 幼妻をイケルに独り占めされ、手出しできぬことすら、いまでは町中に知れ渡っていた。
 家長とはいえ、歳の近い兄に対して腰が弱いにもほどがある――嘲笑の声は小さくはなく、ファビオの面子は丸つぶれといっていい状態だった。
 美貌の幼妻の独占は、イケルの専横のなかでも最たるものといっていい。
 出した金額に差はあれど、キーラは父子三人で買った妻だ。労働で得て貯めた貴重な金を出し合うことで共有妻を娶った。共有の妻、共有の財産であることは、ヘルマンが死んでも変わらない。キーラを養うための金を、ファビオはいまも月ごとに負担しているのだ。家長になったからといって、イケルが独り占めにしていい道理はない。横暴も度が過ぎるというものだった。
 さすがに黙ってはいられない。ファビオは声高に責めたが、兄はまるで取り合わなかった。
「不満なら、出て行け」
 殺意が肉体を衝き動かそうとするのを、ファビオは必死に抑えねばならなかった。
――いつか、殺す。かならず、殺して、くれる。
 憤りに顔面を赤く染めながら、ファビオは心に誓った。ひたすらに耐える忍従の日々が、いまも続いている。家長である兄の気まぐれにより幼妻を貸し与えられるという屈辱に甘んじつつも、殺しの決意を忘れたことはなかった。
 唾を吐くように短くなった煙草を噴き捨て、痩躯はまた新たな一本を指の間に挟んだ。
 これで何本目か。吸えば吸うほど胸が重くなっていく。吐き気すら覚えていた。だが、吸わねば苛立ちは深まるばかりだ。煙草がなければ叫びだしてしまいそうだった。
 この憤りをどうすべきか、始末に迷う。煙草の煙だけでは収められそうにない。久しぶりに弟を痛めつけてやろうか。少しは気が晴れるかもしれない。
 しかし、とファビオはその考えをあらためる。
 最近のエルナンは、自分に対して生意気ではない。強硬な態度はむしろ長兄へ向けられていて、ために二日に一度はさんざんな仕置きを受けている。手足を折られることはないものの、代わりに顔が日々変形の度合いを増していく。歯など残っている本数をかぞえたほうが早いのではないかという有り様だ。
 父が死ぬまでイケルに反抗する弟を見たことはなかったし、また兄がエルナンに暴力を振るったこともなかった。
 接点があまりなかったためだ、とファビオは思う。年齢も離れているし、間には自分という存在がある。エルナンがものごころついたとき、イケルはすでに一人前の鉱夫として働いていた。血の繋がりがあるというだけで、兄弟という意識が希薄であってもおかしくはない。畑しごとを手伝いあったり、家事の分担といった経験もないふたりなのだ。諍いを起こすところなど見たこともなかったが、けして仲の良い兄弟というわけではない。
 ことあるごとに逆らうところをみると、弟はもともとイケルを嫌っていたのだろう。そう断定する根拠が、ファビオにはある。
 ファビオがエルナンを叩きのめした記憶はかぞえきれない。腕や胸の骨を折ってやったこともあるし、数発殴るだけで許してやったこともある。きっかけは些細なことがほとんどだったが、兄として弟をつけあがらせるわけにはいかない。そのときどきで、効果的に懲らしめてやったつもりだ。
 制裁の甲斐あって、しばらくの間、エルナンはおとなしくなった。一ヶ月くらいは逆らうことはなかったし、増長した態度を控えていたように思う。小賢しい弟とは思いつつも、ファビオはその結果に満足していた。
 イケルに対しては、屈服の姿勢を欠片も見せようとしないのだ。鼻を折られた翌日には抗い、再度手痛い一撃をもらっている。歯を折られても、瞼が腫れて目が見えなくなっても、懲りずに刃向かい続けている。
 家長としてのイケルに、よほど含むところがあるに違いない。幼いころより鉄拳を見舞ってきた自分にではなく、理由はわからないが寡黙であった長兄へ敵愾心てきがいしんを燃やしている。
 イケルを憎悪しているという点においてだけは、同志といえなくもない。もちろん口に出して仲間面をするつもりはないが、これまでのように鬱憤晴らしに殴りつける気にはならなくなっていた。
――そうよ。エルナンの餓鬼も、ひょっとしたら役に立つかもしれねえ。イケルの野郎を殺すとき、一枚噛ませてやってもいい。本ばかり読んでやがるから、馬鹿じゃあ、ねえはずだ。兄貴をぶち殺す、おもしろい方法を思いつくかも知れねえ。
 ようやく家が見えてきた。こんな時間に帰宅することは滅多にない。
 たまには弟と話でもしてみるか、とファビオはいくぶん和らいだ表情を浮かべる。そろそろ、煙草の吸い方を教えてやってもいいかもしれない。煙草嫌いの兄の帰らないうちに、数本くれてやろうか。知らず頬が緩みかけたところで、異変に気づく。
 灰色の空に、白い煙がゆらゆらと昇っている。家の煙突からだった。
 まだ昼を過ぎたばかりだ。暖炉を使うような時間ではない。外は風のために肌寒いが、屋内なら厚着をすれば充分にしのげるはずだった。
――贅沢は、許さねえ。
 まだ冬がはじまったばかりだというのに、薪を無駄にしている。給金の大半を家に納めているファビオには、我慢ならないことであった。鉱山での過酷な労働をなんだと思っているのか。拳が痩躯の脇のあたりで握りしめられた。それまで鈍かった脚が素速く交差し、玄関扉前の木板をがつがつと音をたてて踏みつけていく。
 勢いは止まらない。扉の前に立ったところで、右脚が腰よりも高く舞う。靴底を叩きつけられた扉は屋内側の壁へ激突し、蝶番の悲鳴が断末魔のごとく響いた。
 戻ってこようとする扉を押さえつつ、痩躯が敷居を跨ぐ。怒りにまかせた大股の歩みはしかし、眼のなかに飛びこんできた光景によって遮られる。
 ともに半裸の弟と幼妻。互いを支えるかのように、抱きしめあうふたり。
 ファビオは完全に我を失った。




「てえめぇあああっ!」
 咆哮じみた怒声が居間に響き渡る。
 細く長い顔が赤い。初冬の外気に冷えているはずのファビオの身体は、瞬く間に暖炉にも負けぬ高い熱を放ちはじめる。額に浮きあがった血管の太さが、怒りに沸く血の温度を示していた。
 つりあがった目は見開かれて大きい。
 暖炉の前で抱きあう半裸のふたりを睨みつけ、痩躯はもう一度高く吠えた。大股に床板を踏み鳴らして進み、目標まであと一歩というところで、足を止める。
「離れろ」
 抑えた声が激昂に震える。いまにも安全靴が跳ねて、少年の顎を蹴りあげそうだ。
 エルナンは微塵も怖れを見せなかった。凶暴な発作を爆発させる寸前の兄を、自分の肩ごしに見つめかえしている。半ば背を向けているのは、怯える少女の楯になろうとしているためだ。白い手の小刻みな揺れが、着古したセーターの袖から肩へ伝わっていた。
「離れろ」
 声に苛立ちが加わった。憤りを押し殺せずに甲高い。
 少年の視線が揺らぐ。ファビオが扉を蹴開けてから、はじめてのことだった。
 袖にしがみつく手を穏やかに解こうと、エルナンはブラウスの肩に手を置いた。少女に向ける眼差しがやさしい。不安げなキーラの肩をそっと抱き、視線でなだめている。
 大丈夫。心配ないよ。おいら、平気だから。
 声に出して囁いているも同じだ。少女は濡れた目でいちいち頷いている。少年を案じつつも、信頼しきった表情で。とび色の瞳にはエルナンしか映っていない。
 ファビオは首を両手で押さえる。舌の根がひくついて痛んだ。熱い息を吐くと同時に、叫び声を漏らしてしまいそうだった。
 喉奥から飛び出そうとしているのは、怒声ではなく悲鳴かもしれない。そんな屈辱には耐えられなかった。耐えられるわけがない。くしゃくしゃに貌を歪め、ファビオはついに拳を振りあげた。
 殴る。
 殴る。
 殴る。殴る。殴る。
 弟の顔がいびつな形になっていく。唇の瘡蓋かさぶたが剥がれ、鼻の穴から大量の血が噴き出した。それでも倒れない。両脚をぶるぶる震わせながら、踏ん張っている。
 その粘りが許せない。渾身の力を足腰にこめて、ファビオは弟の腹を押し蹴った。
 さすがに堪えきれず、少年のかかとが床から離れる。後方へ飛ばされた身体は食卓の端にぶつかり、派手な音をたてたのち、前のめりに倒れた。
 幼い末弟の口からは、いまだ悲鳴ひとつ漏れていない。暴力に屈するつもりはない、という意思表示かもしれなかった。床に手をつき、立ち上がろうとしている。
 腫れたまぶたの下で、兄を見つめる黒目の光が強い。傷に膨れる頬のせいもあって、ファビオの眼には不敵に笑う憎々しい貌に映る。
「おああああッ!」
 叫んだのは兄だった。膝立ちのエルナンの顔を、吼えつつ蹴りあげていた。
「えぐうっ……!」
 両手で顔を押さえ、少年は床の上をごろごろと転がった。木板の上に、血が点々と落ちては広がる。のたうちまわる弟へ、痩躯はさらに打撃を加えた。背を蹴り、腹に靴の先を食いこませ、頭を踏みにじる。容赦がなかった。
 弟の口から苦痛の声が漏れるたびにファビオの頬は緩んでいった。まなじりは吊りあがって細く、眼球は黒目の部分のほとんどが上瞼に隠されて見えない。犬歯を覗かせる口の端からは荒い息とともによだれが飛び出し、ぶくぶくと白い泡を膨らませている。
 笑みは狂気に満ちて暗い。弟の血を求め、弟の血を浴び、弟の血に迷っている。
 作業ズボンのすそに赤黒い染みが広がっていく。自分の脚に視線を落とした痩躯はいっそう眼をかがやかせ、重い安全靴を跳ね上げる。噴き出された血が作業着のすねに新たな斑点をつけ、染みと染みの間を埋めていく。順調に着色される布地に喜色を浮かべ、ファビオはふたたび脚を走らせる。その繰り返しがつづいた。
 十一歳の子どもに対する手加減は一撃たりともなかった。血に酔った兄はおのれの肉体を制止するすべを忘れてしまったらしい。あまりあまった憤りは逆上を超えて錯乱にまで達し、攻撃性のみがファビオを支配して暴走させている。
 鉄板入りの靴の先は、発達途上の骨をいくつ砕いているか知れない。厚いかかとは残り少ない歯の数をさらに減らしていることだろう。頭部へ与えられる執拗な打撃は、すでに深刻な事態を招いていてもおかしくはなかった。
「ひぃっ……ひぃっ、ひっ……」
 肩を上下させつつ、痩躯がしゃくりあげるような笑い声を漏らした。疲労の色は脚に濃く、膝が小刻みに揺れてはやい。身体を支えていられるのが不思議なくらいだった。
 見開かれた眼はやはり白く、正気とはほど遠いことを窺わせる。肉の薄い頬に涙の筋がつくられていた。唾液の泡同様、本人に気にした様子はない。
 乱れた息に泣き声じみた笑いを絡ませたまま、痩躯は食卓の椅子に手を伸ばした。背もたれの両端に手をかけると、苦痛に耐えるように深く目を閉じ、大きく息を吐く。眉間の皺が深い。
 笑い声が途絶え、深呼吸の音だけが居間に響いた。つばを飲みこむ音が混じり、ごほごほと咳がつづく。深呼吸と咳が繰り返された。
 息を整え終えたのち、ファビオはゆっくりと振り返る。
 頑丈な木製の椅子を頭上に掲げて。
 見下ろした先に、顔面をめちゃくちゃに腫らした末弟の頭部があった。
 血にまみれたくせっ毛は、ぴくりとも動かない。開かれたままの片目は白目を剥いていた。
 痩躯が勢いよく息を吸う。わずかに椅子が後方に傾いた。
「いやああああああああああああっ………………!」
 絶叫が、高く、長く響く。
 絹どころか鉄板ですら切り裂いてしまいそうな、するどい悲鳴だった。
 たじろいだファビオは椅子を背に落とし、目を泳がせ、そして耳を疑った。
 悲鳴を放った人物は視界に収まっている。居間の隅に膝を抱えてふるえる少女であることは明らかだった。
 声の主ではなく、声の大きさが痩躯を戸惑わせていた。
 ファビオの知るキーラは、万事ひかえめな娘だった。セルダ家に嫁いでから、声を張りあげてわめく姿など見たことがない。しおらしく儚い、華奢な姿に違わぬ少女であるはずだった。抗うことも逆らうこともできぬ、従順な奴隷のごとき幼妻であるはずだった。
 破瓜のときにすら、この儚げな少女は声を抑えて哭いていた。巨人ヘルマンの執拗な責めを、一晩中にもおよぶ苦痛を、喘ぎすすり泣くことで耐え抜いた。小さな叫びこそあったが、兄弟の誰も絶叫を耳にすることはなかったのだ。
 狼狽に頬肉をひくつかせつつ、ファビオは深呼吸を繰り返した。泡だらけの口を手の甲で拭うと、うずくまる少女へと爪先を向ける。
「ひっ……」
 小さな悲鳴に狂喜するがごとく、痩躯の薄い唇の端が緩む。鼻息が荒い。眼球は充血しきって赤いが、黒目は正しい位置に戻っていた。
 尻を床につけたまま、キーラは無意識に後ずさった。背後が壁であることも忘れ、床板を踵で蹴りつづける。泣き濡れた瞳は新たな涙で満たされ、かわく暇もない。
 怯えの色が、表情だけでなく総身にあらわれていた。指先までをもふるわせ、いやいやと首を振る少女の様子は、しかし狩猟者を昂ぶらせる。
「立て」
 甲高い声が裏返る。脚をふらつかせながらも、痩躯はあわれな獲物へと歩を進めていく。血走った眼が欲情に潤んでいた。
「う、あうぅ……」
 かぼそいキーラの声は、凶暴なセルダ家の次兄に届いたかどうか。届いたところで、劣情に支配されるオスの耳には、とるに足らぬ小さな抗いにしか聞こえはしまい。とび色の瞳に映る満身創痍の少年の姿など、気にも留めはしまい。
「……来い」
 首を左右に振る少女の手首を掴み、ファビオは華奢な身体を力まかせに抱き寄せる。まるで抵抗を感じない軽さだった。唯一、濡れた瞳だけが床に視線を残している。
「こ、こっちだ。来やがれっ……」
 うわずった声に従うと、キーラは食卓を背にする格好となった。
「そ、そこに乗れ」
 促されるままテーブルの上に尻を乗せ、キーラはおずおずと貌を上げる。儚げな表情が、いつにも増して不安げだった。
「股を、拡げろ。……クソ餓鬼の精液が注がれてねえか、調べてやる」
 痩躯の眼が獰猛な光を放つのを、キーラは見逃さなかった。細面の男の額に、血管が浮きあがって太い。
 エルナンへの仕置きは終わってはいなかったのだ。
 動かなくなるまで痛めつけても、ファビオはまだ末弟を許していない。幼妻との性交の痕跡があれば、さらに攻撃を加えるつもりでいる。怒りの衝動を、ふたたび爆発させるつもりでいる。
 エルナンはいまだ起き上がる気配を見せない。かすかに胸が上下しているから、息はしているようだ。少年の頑強さに驚かされるが、意識はなく無事という保証はない。目覚めたところで立てるかどうか。歩くことのできない身体になっているかもしれない。
 できることなら駆け寄って介抱してあげたかった。
 けれども、目の前の痩躯が許すはずもなかった。エルナンを抱え起こそうものなら、ただではすまない。ふたたび激し暴れ狂うさまが、キーラには容易に予想できる。ぼろ雑巾のように転がる弟を、今度こそ殺してしまうだろう。
 これ以上、ファビオを怒らせてはいけない。
 恐怖に冷える背を伸ばし、キーラは両の膝を折り寄せた。踵を裂け目だらけの卓上に乗せたところで、スカートの裾を掴む。痩躯の視線が白い手の動きに集中していた。
「ど……どうぞ……し、しらべて、ください……」
 羞恥にふるえてはいたものの、少女の声は静かな居間によく通った。対面する男の口が歪み、下卑た笑みへと変わる。覚えず逸らした視線の先で、キーラは横たわる少年がぴくりと動いた気がした。
「は、はやく、見せやがれ」
 キーラはあわてて頷き、スカートの端をつまみあげる。裾を掴む細い指を、ブラウスのはだけた腹部へ引いていく。年季の入った卓の上に、白い太股が、そして、ぴっちりと閉じた一本線の割れ目が剥き出しになった。
「ひん……!」
 露わになった無毛の秘部を、熱い息がくすぐる。浅黒い鼻先が、こすれるほど間近に迫っていた。
 身悶えて閉じかけた少女の膝を、男の両手が押さえつける。痩せ身とはいえ鉱山で働く男の腕力は侮れない。固くなった細膝を、外側に押し開いていく。
 もとよりキーラに抵抗する意志はない。鼻息が敏感な場所に触れたために、覚えず力が入ってしまっただけだ。途中から力を抜き、痩躯のするがままにまかせる。
「あ……」
 膝を限界まで拡げられたところで、ようやく男の手が弱まる。両脚ともテーブルの縁と平行に開かされ、へその上まで捲ったスカートから下は無防備そのものとなっていた。つるりとした下腹部から卓に乗せた尻の割れ目まで、覆い隠すものは影ひとつない。
 幼妻の恥丘すべては、ファビオの眼前に晒されていた。
 顎を背けつつも、キーラは瞳を下腹の先へと向ける。突き刺すような視線に、割れた柔肉がちくちくと痛い。湿った鼻息を浴びているせいか、股間が熱っぽくじんじんする。
「ん、うぅん……」
 息苦しさを覚えた少女は、艶めいた響きを帯びた吐息を漏らす。肉づきの薄い腰をくねらせながら。
 痩躯の喉が大きく鳴った。
 唇がかわくのだろう。しきりに口の周りを舐めまわし、ファビオはもう一度唾を飲みこむ。口から吐かれる息が、わざとらしく緩い。
「っ…………!」
 少女の左膝を押し開いていた手が、ふいに動いた。なめらかな太股の内側をすべり降り、脚のつけ根へと到達する。指の腹でぷっくりとふくらむ恥丘のかたちを確かめるようになぞると、ファビオは顔を近づけて匂いを嗅ぎはじめた。
「ひっ……や、いや、あ……」
「へっ、精液の臭いはしねえが……」
 痩躯がおのれの人差し指を深く咥える。妙にまじめくさった顔だった。何度か出し入れしたのち、ぴっちり閉じた割れ目に指を押し当てる。
「あ……」
 唾液に濡れた指先は上下に動いた。一本筋を押し開き、割れた肉の間をこすりつける。隠されていた上部の突起に触れるたび、少女の長い睫毛がふるえた。
「……湿ってやがるじゃねえか」
 股間近く秘部を凝視していたファビオが、端正な貌を仰ぎ見る。嘲りの混じった声に、キーラは困惑ぎみの表情を返すことしかできない。
 やがて、茶褐色の指が潤いの入り口で止まる。指は関節を伸ばし、柔らかくも弾力のある肉に挟まれたまま、ゆっくりと沈んでいく。肉づきに乏しい太股が、弱々しい吐息とともに細かく揺れた。
「あんっ……んうっ、ひうぅっ……」
 根もとまで埋めた指を、痩躯はただちに抜こうとはしなかった。緩慢に出し入れを繰り返しては膣奥で暴れさせる。少女の頬は紅く染まり、喘ぎはしだいに淫らな音色を帯びていく。
「はううっ…………!」
 声が高くなったところで指が引き抜かれる。抜いた指の匂いを確かめる男の顔を、キーラは酔ったような貌で見つめていた。濡れた瞳が虚ろに淡い。
「へっ、餓鬼のチンポをねじこまれては、いねえみたいだな」
 疑いは晴れたらしい。痩躯の表情に安堵の色が見えた。硬さを残していた頬が緩んでいる。
 いぜん恥ずかしい姿勢でいる少女をよそに、ファビオは窓の外に視線を移した。
 陽は落ちはじめている。じき、夕日が居間を赤く染めあげることだろう。
「……大丈夫だ……。イケルはまだ、帰ってこねえ……まだ、大丈夫だ……帰ってこねえ……」
 自分に言い聞かせるがごとく、痩躯は同じ呟きを重ねる。束ねた後ろ髪に触れる指はべとついていて、毛の房は見る間に脂にまみれた。泳ぐ眼の上で眉間を刻む皺が深い。
「そう……そうともよ。……イケルの野郎、喧嘩に勝った勢いで、取り巻きと飲んでやがるんだ……。そうに、違いねえ……違いねえ」
 振り返ったファビオの眼から、迷いの色は失せていた。ふううと大きく息を吐いて立ち上がり、作業ベルトのバックルに手をかける。かちゃかちゃとせわしい音を聞きながら、キーラは睫毛を伏せた。
「い、いいか……イケルには、黙ってろ。しゃ……喋ったら、承知しねえ」
 大きく開いた白い脚の間に、浅黒い男の腰が入っていた。すでに作業ズボンは床まで降ろされ、体毛の薄い下半身を晒している。勃起した男根の先は、少女の割れ目の上にあった。
「…………はい……」
 頷く少女の小さな声に、おびえの色は薄い。わずかに貌を背けたものの、みずから受け容れる姿勢をとった。両手を背より後ろに置いている。性急な次男にはげしく突き入れらることを覚悟し、華奢な身体を支えるつもりなのだ。
「へ、へへ……あいかわらず、柔らけえじゃ、ねえか」
 亀頭の先が恥裂を押し割っている。軽口とは裏腹に、ファビオの表情に余裕はない。眼の下がひくついていた。油断すると漏らしてしまいそうなのだろう。未熟な性器ならではの張りと柔らかさは、若い肉棒をこのうえなく甘やかすものであった。
 むろん、暴発はファビオの望むところではない。急ぎ根もとを握りなおし、狙いを定めると、一気に腰を押し進める。せめて膣内で漏らしたかった。できることなら、長くこの悦楽の刻を過ごしたい。
「ああ、あんっ……」
 久しぶりの感触だった。ぬるぬると温かく、勃起を締めつけて狭い。キーラの甘い声が耳に心地よく、ファビオは股間のみか胸をも熱くする。息が止まりそうだった。
 実に一ヶ月以上も幼妻の膣内を味わっていなかった。共有妻であったはずなのに、イケルが家長になって以降、抱くことも許されない。当然の権利を奪われていた。
 憤りがふつふつと臓腑を煮やしかけるも、きゅうきゅうと男根を締めつける淫らな肉孔がファビオを快感の渦へと巻き戻す。
 肉棒を包みこむ膣壁は柔らかく、それでいて逃がさんとばかりに窮屈だった。巨根のイケルに犯される毎日をおくっているというのに、まるで広がる気配を見せない。処女を奪われたばかりのころと変わらぬ狭さをいまだ保っている。
「うっ……おお、う……」
 ファビオは動けなくなっていた。幼妻の両膝に手をかけてはいるものの、腰を押し出すことも、引くこともできない。まだひと擦りもしていないというのに、射精直前にまで追いこまれている。肉棒を挟みこむ無毛の割れ目を見つめるだけで高ぶりは増していく。いまにも放ってしまいそうだった。
 射精の衝動に耐えるファビオの息が苦しげに荒い。顔をくしゃくしゃにして堪ようとする様子は、余人が目にすれば失笑ものだろう。いまにも泣き出しそうに見えた。
 必死に堪える男の顔をキーラが窺う。うつむきかげんで、ためらいながら。けれども、とび色の瞳は逸れることなくファビオを捉えていた。
「ふう、ふうっ、ふうっ……」
 痩躯は視線を向けられていることに気づいていない。事態は切迫していて、夢に見るほど焦がれた幼妻の姿を愉しむゆとりもなかった。
 かすかに、少女が首を傾ける。
 憂いを帯びた瞳に慈愛の色が混じっていた。やわらいだ眼差しは、弟を諭すようにやさしい。おびえの陰影は薄らいでいる。
「おっ……お、おいぃっ……」
 少女は上体を起こしていた。制止を命じる声が、悲鳴じみて高い。
 男の首――束ね髪のあたり――に、細い腕が巻きつく。膣内の熱さとは裏腹に、ひどく冷たい。背にぞくぞくとはしるものを覚え、ファビオは焦燥に身を引き締める。わずかな刺激で放出しかねない。息すら止めた。
 懸命な男の努力をよそに、今度は白い脚が動く。
 狙いは腰だった。痩躯の腰を、すらり伸びた脚が挟んで抱えこむ。交差した足首は尻の上で固く、ファビオに身じろぎひとつ許さない。完全に捕えられていた。
 ブラウスのはだけた胸も。臍も。絡まった腕も。手も。脚も。太股も。脹脛ふくらはぎも。足首にいたるまで。すべて隙間なく男の身体に密着して離れない。互いの心音の律動を読みとれるほどだった。
「っ…………!」
 ファビオは息を止めたまま、泣きそうな顔で抗議を試みる。もはや声を放つことも難しいのだろう。額にも首にも血管が浮きあがって太い。
「んっ…………」
 しわくちゃに歪んだ顔へ、キーラは頬を寄せた。呼吸不全に赤く染まる横顔へ頬肌をこすりつけ、同時に巻きつけた腕と脚に力をこめる。
 非力な少女の、懸命の抱擁。
 男の首と腰に組み絡めた手脚は華奢な身体を吊りあげ、ついには小ぶりな尻を卓の上から浮きあがらせる。思わずファビオは両手を差し出し、少女の腰を抱えてしまっていた。
 ぱんぱんに膨らんだ睾丸が臀丘のはざまに押しつぶされて痛い。射精直前の勃起は根もとまで呑みこまれていた。熱く湿った膣奥で、亀頭の先端を阻むものがある。いつもとは異なる感触だった。
「あっ……ん……」
 甘く濡れた吐息がファビオの耳をくすぐる。ぶるっと震えそうになるのを堪えたところで、腰に揺れを覚えた。あわてて視線を向ける。
 白い尻が、淫らに揺れていた。
「う、お、お……!」
 ぬめる膣壁で小刻みに扱かれた肉棒は、ほどなくして力強く脈を打ちはじめる。
 限界だった。
「ひっ……ぎぃっ……ひっ……!」
 痩躯の口から悲鳴じみた声が次々と飛び出していく。勃起が脈動するたびに漏れてしまうのだろう。断続的な叫びは止まらない。
 どくどくと欲望の白液を注ぎこみながら、ファビオは幼妻をかき抱いた。背に回した両腕に容赦ない力が加わっている。骨のきしむ音が聞こえてきそうなほどだった。
 凄まじい圧迫感に襲われているはずのキーラに苦悶の表情はない。こぼれる息こそ短く弱々しいものの、ととのった貌には皺ひとつ刻まれていなかった。伏せられた睫毛に揺らぎはなく、紅いくちびるはわずかに開かれて緩い。淡い微笑にさえ見えた。
「はっ……はあっ、ふぃっ、はあっ……ひっ……!」
 吐精を終えても男の呼吸は覚束ない。吃逆しゃっくりに似た悲鳴を伴って、しばらく整いそうもなかった。慌ただしく上下する肩が極度の消耗を訴えている。半ばまで剥いた眼が濁って白い。
 ファビオは正気を保とうと必死に意識を集中させていた。少しでも気を抜けば倒れてしまうだろう。事実、射精最中さなかの記憶がいくたびか抜けている。
 息を吸うたび胸に痛みが走り、膝はがくがくと揺れてはやい。振動が頭に伝わって吐き気を誘発しそうだ。
 吐精の余韻はとうに消え去っている。精液を存分に吐き出した男根は、硬度を失って幼い恥裂の外へ追い出されていた。ぐにゃりと柔い性器はひどく弱々しい。邪慾をすべて搾りとられ、吸いとられた男の姿を現わしている。
 こんなはずではなかった。ファビオは自身のことながら信じられない。
 久しぶりの性交だったのだ。兄が帰ってくるまで、二度、三度と愉しむつもりだった。幼妻の柔肌を味わい尽くすはずだった。たった一度の放出で萎えてしまうとは。かつて一度や二度の射精で疲れを覚えたことなどなかったのだ。イケルほどの絶倫ではないが、短時間に抜かず四回を注ぎこんだこともある。
 興奮しすぎたのか。それとも。
「だ、だいじょうぶ……です、か……?」
 耳もとで囁く声に、ファビオは我に返った。返答しようとしたところで、ひんやりと冷えた感触が背を撫でる。小さな掌だった。衣服越しだというのに、直接触れているのかと錯覚するほど冷たい。
 悪寒は覚えなかった。むしろ汗ばんだ肌に心地よい。
 ファビオは目を閉じ、撫でる手に身をゆだねた。さする手はやさしく、ひゅうひゅうと喉を通る悲鳴じみた吸気も徐々に収まっていく。眠りにおちる直前の、まどろみに似たやすらぎが全身を包む。かつてなく穏やかな気分だった。苦痛はすでに忘れて遠い。
 やがてファビオは寝息を耳にする。自分のものだとしばらく気づかず、驚いて身を起こすまでいくらか時間を要した。
 目を開けてみて、ファビオはまたも驚く。
 自分の顔の真下にキーラの顔があった。テーブルの上、幼妻を組み敷いた格好になっている。押し倒した記憶もなく、もたれかかった覚えもない。もっとも、射精後の意識の有無はあやしい。
 キーラのしわざかもしれなかった。卓上を背に倒れこむついでにファビオを招き寄せたのかもしれない。いまだ冷たい両手の感触が、痩躯の腰にも残っていた。
 見おろした先で、少女の貌はやはり儚く弱々しい。視線が交差するのもつかのま、とび色の瞳は端に逃げる。遅れて睫毛が両眸を覆う。
 くちびるだけが、なにかを訴えたげに白い歯を覗かせている。
「……キーラ」
 なぜ幼妻の名を呼んだのか、ファビオ自身わからない。ただ、呼びたかった。怒りでも憤りでもなく、胸が灼きついて熱い。
「キーラ……キーラっ……!」
 うわずった声が繰り返され、少女はゆっくりと瞼を開く。澄んだ瞳は逸れたままだったが、再度の呼びかけに揺れ動いた。おずおずと痩躯の眼を見つめる。
「きっ、キーラっ!」
 開きかけた紅いくちびるをファビオは口で塞いだ。くちびるを吸い、か細い上半身を抱きしめる。
 ファビオは自分の感情をうまく整理できない。なにかに衝き動かされるままにキーラを呼び、キーラを抱きしめている。
 離したくない。とにかくそう思った。離したくない。離れたくない。ずっと、このままでいたい。なにもかも忘れて、ずっとこうしていたい。
 自分だけのものにしたい。自分だけのキーラであってほしかった。自分だけを見つめていてほしかった。
 自分だけを想うキーラであってほしかった。
 頬を流れる涙の熱さに、ファビオは狼狽えて悶える。抱きしめた少女の身体の感触が、くちびるの柔らかさが、狂おしいまでに悲しかった。


テーマ:18禁・官能小説 - ジャンル:アダルト

  1. 2013/06/30(日) 13:13:13|
  2. 恣(ほしいまま)~共有される幼な妻~
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
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臥頭狂一

Author:臥頭狂一
(がとうきょういち)
 日々、頭痛に悩まされながら官能小説を書いています。
 いろいろなジャンルに手を出していくつもりです。よろしければ読んでいってください。
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